(昨日の投稿からの続きです、①は昨日の投稿をぜひご覧ください)
HUISを立ち上げる以前のことを、少し振り返ってみます。
こうした遠州織物のことを知った当初、私たちは、他にもそういう良い生地を作っている地域や、あるいは国があるものだと思っていました。
お米だったら「魚沼産コシヒカリ」、牛肉なら「松阪牛」が有名ですが、他にもお米や肉牛を作っている地域は多くあり、それぞれにブランド化を図って一生懸命切磋琢磨しています。高級な綿織物といわれる遠州織物も、数ある産地のなかの一つではないか、というイメージが最初の感覚でした。
ただ、知っていくと、旧式の織機を使った高級糸の細番手高密度の生地を作る産地なんて、もう世界中どこにもない、唯一、遠州だけで、とんでもない技術を持った機屋さんたちがこの技術を閉ざさまいとがんばっている。でも、年々縮小し、今にも消えて無くなってしまいそうな産地なんだ、ということを知ります。
和牛は世界で評価されているのに、日本中、どこもブランド牛を育てなくなって、和牛というものを見ることはもうほとんどない。畜産業が残っている国内産地は松阪牛を作る松阪だけ、あとは安価な輸入牛肉しか流通していない。まるで、そんな感じなんだと理解するようになります。
そして同時に、繊維産地というものは、それほどまでに一般消費者に対して情報が伝わらないものなんだ、と思いました。松阪牛は松阪牛としてはっきりとブランド化されていて、消費者に認知されています。松阪に行けば間違いなくおいしい松阪牛のお店があるし、少なくとも、そこに住む地域の方々はそのことを誇りに思っています。
こうした素材そのものが消費者に届けられる農産物と比べ、「生地」はとにかく生産者から消費者までの距離が遠い。
繊維業の特徴のひとつは、流通において、中間に関わる役割を持つ人が多い、ということです。
アパレルは、素材そのものの価値よりも、デザインや見せ方といったものが尊重される世界です。私たちは、それ自体はとても文化的で尊いことだと思います。だからファッションはこれほど魅力的で、人にとってとてつもなく大きな産業になっている大きな要素だと思います。
ただ、一方で、こうした部分での優先順位を持つ人をたくさん介することで、素材そのものの価値について、その情報はどんどんと薄まっていきます。どの国で、どの産地で作られた生地か、という情報すら、流通の途中で消えてなくなってしまうのです。だから、遠州に住む人すら、遠州織物のことを知らないのです。
そして、素材の価値の情報が薄くなるのであれば、それは効率良く生産できる安価なものにどんどんと置き換わっていくということが、実際、自然なことだと思います。
HUISを立ち上げ、しばらく経ってからの頃の話に移ります。
ブランドをスタートしてから、次第に地域内だけでなく、イベント出展などを機会に、地域外に展開が広がっていくようになります。
そこで知り合ったブランドさん、担当者さんやオーナーさんと交流する中で、他産地のことを少しずつ知っていきます。
最初にそういう“産地”をテーマにしたイベントに出させてもらったのが、名古屋タカシマヤでの『もんぺ博覧会』でした。これは、福岡・久留米絣をもんぺ(MONPE)にしてブランド展開されている「うなぎの寝床」さんが企画されていたイベントで、名古屋に程近い遠州のブランドとして呼んでいただいたのがきっかけでした。
久留米絣はもともと着物のブランド生地ですが、“日本のジーンズ=MONPE”というコピーで新たな価値を提案され、当時からうなぎの寝床さんは産地発ブランドとして有名でした。
その後、同じように産地をテーマとするイベントが少しずつ現れ始め、例えば、最高品質のウールコートを作るblanketさんと知り合い、愛知県一宮市が尾州織物といってウール生地のすごい産地だ、あざやかなショールを展開するtamaki niimeさんと出会い、兵庫県西脇市(播州)は遠州と並ぶ綿織物の産地なんだ、といったことを知っていきます。
他にも、主な繊維関係の国内産地をいくつかざっくりとご紹介させていただきます。
群馬・桐生 → シルクとジャガード織物
山梨・富士吉田 → シルク
北陸 → 化学繊維
新潟 → 横編みニット
静岡・浜松 → 綿・リネン(遠州織物)
静岡・磐田 → コーデュロイ(遠州織物)
愛知・一宮 → ウール(尾州織物)
愛知・三河&知多 → 綿(三河木綿・知多木綿)
滋賀 → 麻(近江上布)
三重・伊勢 → 綿(伊勢木綿)
和歌山 → 丸編みニット(メリヤス)
奈良 → 靴下
京都・西陣 → シルク(西陣織)
南大阪 → タオルや毛布(泉州織物)
兵庫・西脇 → 綿(播州織物)
岡山・児島 → デニム
愛媛・今治 → タオル(今治タオル)
福岡・久留米 → 久留米絣
和服生地を作る産地についてはまだまだ他にもありますが、アパレルに近い産地を列記しました。
こうした繊維産地のことを知るたびに、ああ、これは農産物と全く同じなんだ、と考えるようになります。
(明日の投稿に続きます)