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お伝えしたいこと 2023-02-07

“農産物と同じはずの「繊維産地」が、ほとんど知られない理由③”

(昨日の投稿からの続きです、ここからご覧いただいた方は①の投稿からぜひご覧ください)

遠州の農業について、少し話題を広げます。
ここ遠州は農業が盛んな地域で、特に”国土の縮図”と表現されています。それは、日照量が豊富なほか、地域内に気候や地形・土質が異なるさまざまエリアがあり、多種多様な農産物が生産されていることが理由です。

農産物は、その土地の環境にあったものが特産品として育ちます。例えば、浜松の「みかん」が育つ地域は、山間地に近い地域で、大きな石が土の中にごろごろとあるような痩せた土地です。
おいしいみかんが育つためには糖度を高めるため豊富な日照量が必要になるとともに、根からの水の吸収をどれだけ防ぐことができるか、がポイントです。水はけが良い痩せた土地で日照量が豊富な地域だからこそ、おいしいみかんが採れ、ブランド力は高まり、みかん栽培の技術が歴史的に成熟しているのです。

一方、国内で長野に次ぐ大きなシェアを誇る浜松のセルリー(セロリ)が育つのは、天竜川西岸や浜名湖東側の地域で、ここは栄養分が豊富でふわふわの洪積埴壊土が広がっているため、栄養を必要とする西洋野菜がよく育ちます。
川や湖に隣接するこうした土地は、大昔は川だったことが多く、山から流れてきたたくさんの養分を土が含んでいるためです。
仮に痩せたゴロゴロ石の土地に持ってくと、セルリーはまともに育ちません。その地域ならではの強みを活かした特産物が生まれるわけです。

こうした地域ごとの農産物の産地化を、生産・流通・ブランド化の面で大きな役割を果たしてきたのが、各地域に根付く農協です。厳しい出荷基準を設け、それに足る生産技術や資材を農家さんに提供し、品質基準の保たれた生産物を産地としてブランド化し、流通にのせるのです。

農作物に洋服のようなデザインディレクションは不要です。流通において中間に関わる人たちが、常に◯◯産という情報とともに、素材そのものを流通させていきます。◯◯産という情報を、信頼性の根拠として。これは水産物についても同じことが言えます。
そうした情報のおかげで私たち日本人は味だけでなく、地域性も感じられるこんなにも豊かな食文化を享受することができています。

繊維業に話を戻すと、繊維産地の分布でよくわかるように太平洋に面した日照量の豊富な地域ではほとんどが綿織物の産地となっています。そのため、綿織物の産地は現在も農業がさかんな地域です。遠州織物の歴史も、綿花の一大産地となった江戸時代中期以降を発祥とするもので、農産物たる綿花栽培が繊維業の基礎にあります。
一方で、日照量の乏しい北陸地域は化学繊維の産地、群馬や山梨といった内陸部では、養蚕を基とする絹(シルク)織物の産地として残っています。

こうした特産物を見ていると、知られにくいと言われる繊維産地の中でも、一般消費者の方に比較的よく知られている産地というのは「今治のタオル」「奈良の靴下」「岡山のデニム」といったものではないかと思います。

その理由のひとつは、生産品が最終製品により近いものだからだと私たちは考えます。
素材そのものが最終製品に近いということは、デザインをするという役割が薄く、生産者から流通までに介する人が少ないということです。そのため比較的農産物に近く、結果、産地そのものがクローズアップされやすい傾向があるのだと思います。

その点、「旧式のシャトル織機で織った細番手高密度の生地」というまさに中間材である遠州のような生地の産地が知られづらいのは自然なことなのだと思います。

こうした中で、国内の繊維産地のことがきちんと知られ、技術を持つ職人さんたち生産を担う方々にスポットがあたるためには、流通の中間を担う立場の人や企業が、どれだけ産地の価値ある情報を発信していけるか、が鍵だと私たちは考えています。

HUISのような「産地発ブランド」は、生地を仕入れるための中間事業者をまったく介しません。また産地の中で、歴史、技術、生地の情報を得て、価値を知ることができます。これほど恵まれた環境はありません。

日本の国内には、多種多様、豊かな繊維産地が今なおあります。担っている人たちがいます。たくさんの人に知ってもらえることは、そこに住む地域の人の誇りになり、そして日本人にとっての誇りになります。
そして、それはファッションを楽しむ消費者のみなさんにとって、いかに幸せなことか。色や形など、外面的な情報だけでこれほど楽しめていたファッションの下には、無限に広がる日本の産地や技術という興味深い情報があるのです。さきほど話題にあった食文化と同じような世界が、その先にあるのです。

WEBやSNSが発展し、生の情報・本当の情報を知ることができるようになった現代で、「産地発ブランド」と言われるブランドがもっともっと出てくる未来を私たちは予想しています。そういう人や組織が、各地域に現れることを期待しています。そして、そうしたブランドさんたちと、切磋琢磨して交流する未来を楽しみにしています。

昨年お届けしてきた「生地のコト、産地のコト」シリーズのうち、2023年は、いよいよ「産地のコト」編をスタートします。ぜひそちらもご覧くださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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