浜松出身のライター・宮崎駿(みやざきしゅん)さんが綴る『知らずにいた故郷の誇り、遠州織物の今と未来』、第21回「担い手になるかは、入ってからでも決められる」です。
*2026年度「遠州のトビラ」は 11/11(水)-11/14(土)に開催します。
参加申込受付中(締切10/15(木) 18:00)
詳細は下記をご覧ください。
https://hamamatsu-mononavi.jp/news/41762
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担い手になるかは、入ってからでも決められる
「その1人に、なってみませんか?」
経通し職人について書いた回を、私はこの一文で締めくくりました。経通しの工程を本格的に担っている職人は、当時2名だと伺いました。この現状を変えるには、新しく加わる人が要ります。読んでくださった方の中から1人でも、と考えての呼びかけでした。
ただ、あの問いを自分に向けたことは一度もありませんでした。私は呼びかける側であって、呼びかけられる側ではないと、無意識に線を引いていました。
そのことに気がついたのは、経通し職人を志す人が新たに3人現れたと知ったとき。と言っても、私の呼びかけで動いた人たちではありません。産地の人たちの後押しで、経通しの回で紹介した経通し職人の府川さんと出会い、同じ道を選んだそうです。
後押しを続けているチームのひとつが「entrance」。遠州織物に関わる方々が集まり、産地を知ってもらうことと、担い手を迎えることを中心に活動をしています。
その取り組みのひとつが、3泊4日で産地の事業者を回る宿泊型インターンシップ「遠州のトビラ」。浜松市の事業として2年続けて開かれ、2025年の回には全国から16名が集まったそうです。

entranceのサイトには、「遠州さんちの求人情報」というページもありますが、これが少し変わっているんです。一般的な求人情報に書かれているのは、会社の基本的な情報や給与などの条件面、担当する業務内容など。就職先を選ぶ上で欠かせない情報ですが、箇条書きを見ても、そこで働く自分の姿は想像できません。
「遠州さんちの求人情報」では、情報は必要最低限。その代わりに、現場の話が隠さずに書かれています。
織る前に糸を巻きそろえる整経の記事では、50年以上続けている職人が、笑顔で仕事の話をしていたそうです。コーデュロイの起毛を出すカッチングでは若手が一人しかおらず、始めて2か月のその人が、仲間やライバルを探している、とありました。
職人さんたちの普段の仕事と同じように、人の手で作ったような求人情報だなと感じました。
そして応募資格の欄には、どれも「未経験可」とあります。
この4文字を読んで、私は初めて、自分がその仕事に就く姿を思い浮かべました。ゼロから手に職をつけ、受け継がれてきた技術を守る側に立つ。AIの時代にこそ手仕事の価値は上がると、以前この連載で書いたとおりです。
この仕事だからこその魅力が、間違いなくあります。また、私はすでにフリーランスとして活動しているので、会社員の人と比べても心理的なハードルは少ないでしょうし、今の仕事を続けながら、職人としての道を進むことも不可能ではないと思います。
そう感じるのと同時に、引っかかることもあります。
仕事の拠点も、自分だけでなく家族の生活も、まとめて動かすことになる。産業としての今後を読むのも簡単ではない。仕事の中身が特殊なぶん、進んだ先でキャリアの幅は狭くなるかもしれません。そして、手先が不器用な私に務まるのか。どの仕事が向いているのかさえ、見当がつきません。

ただ、遠州のトビラに参加すれば、拠点を移す前に最大3か所の現場で仕事を体験して、向いているかどうかを確かめられます。また業界の先行きについては、アパレル向けの遠州織物の生産量が、2022年から3年続けて増えているとのこと。
キャリアの幅についても、道は一本ではありません。複数の工場を兼務する人や、副業で作家として活動する人がいるといいます。
entranceという名前には、「遠州産地に夢中になる入口」という意味が込められています。入口は、あくまで入口です。入った時点で何もかもが決まるわけではなく、そこからどの道を進むのか、どんな出口を目指すのかは、自分で選べます。合わないと分かれば、離れることもできます。

もちろん業界としては、長く続けてくれる人が増えることを望んでいる部分はあると思います。一方でHUISは「遠州のトビラの参加者がそれぞれの関わり方で遠州産地とつながってくれたら嬉しい」というメッセージを発信しています。
まだ、担い手になると決断できていなくてもいい。たとえば「遠州さんちの求人情報」を読んでみる。産地を見に行く。遠州産地に夢中になる入口は、その一歩の先にあります。










