生地のコト、産地のコトを少し掘りさげ、わかりやすく解説させていただく“生地のコト、産地のコト”シリーズ。今年は“産地のコト”にスポットを当てて、日本各地の繊維産地についてお話ししています。
第4回となる今回は、HUISの地元、遠州産地についてご紹介します。
4.遠州(静岡)
遠州は、もともと泉州(大阪)、三河(愛知)とともに日本三大綿織物産地の一つとして知られており、主に浜松市を中心とするブロード・ローンなど高級シャツ生地と、磐田市・掛川市を中心とするコーデュロイ生地の天然繊維織物産地です。
現在では、多様な素材を扱い織り方も多様で技術も幅広いため、一言でこれが遠州織物とは言えないほど、機屋さんごとに個性ある多種多様な織物を生産しているのが遠州産地の特徴です。
和装向けの小幅織物から高級シャツ生地など洋服向けの広幅織物までさまざまな生地を生産しています。浴衣や手ぬぐいを生産してきた背景から、注染やプリントなどの染色加工の技術も発展してきました。
また、旧式のシャトル織機の保有台数が国内最大級(2019年時点869台)で、効率化を求めた織機にはない、品質の生地を織ることができます。
遠州地方は、天竜川の豊かな水と温暖な気候によって、古くから綿花の産地として栄えてきました。
遠州織物自体の歴史は古く、浜松市北区三ヶ日町にある初生衣神社(うぶぎぬじんじゃ)が発祥と言われています。初生衣神社では、平安時代にあたる800年以上前より、伊勢神宮へ神御衣(かんみそ=天照大神が着たと言われる衣)を納めるという神事を担ってきた、他社に類のない由緒ある古社です。
祀られているのは「天棚機姫命(あめのたなばたひめのみこと)」。日本では大変なじみの深い、七夕の織姫(おりひめ)様で、「機織りの神様」とされています。
初生衣神社の境内にある江戸時代に建てられた「織殿」の中には、800年前に神御衣を織っていた物と全く同じ形をした織機が置かれています。
産業として盛んになったのは江戸時代の頃で、当時の浜松藩主の奨励もあり、閑散期の農家の副業として手織の綿織物作りが盛んになります。明治に入ると遠州地方に紡績工場がつくられ、明治中期には木綿商人が活躍し販路が拡大したことで、遠州の織物は全国に知られるようになり、「遠州木綿」として高い評価を得ます。
そして明治29年(1896年)、現在の静岡県湖西市に生まれたトヨタグループの創始者・豊田佐吉が、国産初の木製小幅動力機を発明します。それまで手作業だった織機が自動化されたことで、綿織物生産は飛躍的に拡大しました。
さらに、大正初期にかけて国内の電力網の整備が進んだことに比例して、須山式、阪本式など多くの事業者によって織機が開発され、動力織機が急速に普及します。また、1909年には現在のスズキ株式会社の前身である鈴木式織機製作所が現在の浜松市で創業しました。
昭和初期には、第一次世界大戦の影響でヨーロッパでの織物生産量が減少したことから、国内向けの小幅織物(和装用)から輸出用の幅広織物(洋服)へ生産を転換し、生産量も輸出量も拡大します。
発明の街と言われた遠州地域には織機を製造するメーカー、そして紡績企業が集中し、国内有数の技術をもっていたからこそ、世界的にも「高級生地」と位置付けられる広幅織物への転換を図っていくことができたのです。
昭和中期には、朝鮮戦争による特需を経て、ガチャっと織るたびに万単位のお金になる「ガチャマン景気」を迎え、遠州地域の繊維産業は最盛期を迎えます。
戦前、戦後と遠州地方の成長を大きく支えてきた繊維産業でしたが、昭和後期からは日米貿易摩擦や発展途上国の台頭、海外の安価な織物に圧され規模は縮小していきました。
遠州の機屋さんの多くは、もともと「産元」と呼ばれる生地を専門に扱う商社から仕事を請け工賃をもらう「賃織」という独自のスタイルで生産を行なっていましたが、繊維産業の縮小や構造的な問題を抱えていたことから、近年では高い技術を活かして機屋それぞれの強みを活かしたオリジナル生地の企画・開発に取り組むようになりました。現在では海外の高級ブランドからも使われるような独自の生地を生み出しています。
それぞれの機屋さんが、希少な織機や他では織れない織布技術、細かなオーダーにも対応できるノウハウをもつことからアパレル企業と直接取引をしたり、自社ブランドを立ち上げたりと、新たな生産方法や販路拡大に取り組む機屋さんが少なくありません。挑戦を続けてきた遠州の先人の職人たちの技術と想いを受け継ぎ、時代に先駆けた新しい取り組みを続けています。
■HUIS blog【生地のコト、産地のコトシリーズ】
https://bit.ly/35AiXF4
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高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
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