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お伝えしたいこと 2024-05-06

“「かつて織られていた生地」が今織れない理由”

今期リリースした生地「極細コットンラミー」は、遠州に残る機屋さんの倉庫に眠っていた貴重な生地です。

現代では生産することが困難であることから、生地がある限りの限定品となりますが、なぜ今新たにこの生地を生産することができないのか?というご質問を先日のインスタライブの中でいただきました。
とてもありがたいご質問で、あらためてこちらで解説をさせていただければと思います。

まず、この「極細コットンラミー」はどんな生地かというと、その組成はタテ糸120番手のコットン糸、ヨコ糸に麻番手180番手のラミー(麻)糸から成ります。
ラミーとは、麻の一種の苧麻(ちょま)。しっかりとした丈夫な肌触りが特徴で、リネンよりもさらにシャリ感が強く、通気性や吸水性などに優れているため、爽やかで涼しさを演出してくれる夏にぴったりの素材です。タテ糸・ヨコ糸いずれも極細糸を使っているため、着ている感覚がないほどの軽やかさを持ちます。

こうした組成の「極細コットンラミー」をなぜ織ることが難しいか、というと、その一番の理由は『糸が細すぎるから』です。
糸は細ければ細いほど「高級糸」となり価格が高くなります。そして、糸が細ければ細いほど、機織りの工程で糸が切れやすくなるため、低速で動くシャトル織機のような旧式の織機でなければ織ることができず、また糸の張力等を調整する高い技術が必要になります。
タテ糸にゆるふわコットンの「100番手単糸」よりもさらに細いコットン糸を使い、ヨコ糸には「麻番手180番手単糸」のラミー糸を用いるというのは、通常では織ることが非常に難しい組成の生地なのです。

こうした細番手高密度の生地を織ることができる技術力が、遠州産地の最大の特徴で、遠州織物が世界的にも貴重な生地と言われる理由です。
「糸が細くなるほど切れやすく、織るのが難しくなる」という大前提が、機織りの世界の共通認識であり、技術を持ってしか超えることのできない壁なのです。

一方で、現代主流となっている「化学繊維」であれば、この壁をあっさりと越えることができます。
石油を原料として作られるポリエステルやナイロンの糸は、細い糸も丈夫で強いことから、超高速で織る大量生産型の現代の織機でも、コンピューター制御のもとで容易に織ることができます。
もちろんこれが近代繊維業の技術の発展でもあるわけで、見た目には同じようなブロード生地やローン生地を大量に作れる時代となりました。
ですが、ご存知の通りポリエステルやナイロンは熱がこもりやすく、汗をはじいてしまうため、シャツに仕立てた時の着心地は天然素材のそれとは異なります。

コットンのように汗を吸ってくれ、麻のように体熱を蒸散してくれるのは、天然素材だからこそ持つ機能で、HUISが天然素材にできるだけこだわる理由がここにあります。

話を少し戻すと、こうした『天然素材でかつ細番手の糸』を織ることは機屋さんの世界ではとても難しいことなのですが、遠州に残る機屋さんの一部はこうした技術を持っているわけです。
それでもこの「極細コットンラミー」のような生地を新たに生産できない理由は、【糸原料の高騰】と【需要の減少】にあります。

先日、麻原料の高騰によってリネン糸の仕入れが難しくなっている現状をお伝えしました。
コットン、リネン、ラミー、ウール、いずれも天然素材原料の価格は一昔前とは全く違う価格です。
今、この極細コットンラミーに使われている糸を仕入れたとしたら、数倍の価格の商品になってしまうのです。これが【糸原料の高騰】の要因です。

またこの先、原料高騰の状況が長く続くことで、リネン糸を仕入れる機屋さんは減少し、リネンのような難しい素材を織れる技術をもった職人さんは、より少なくなってしまうでしょう。
生地を織ることができる機屋さんの絶対数が減れば、かつて使われていたリネン糸も流通しなくなります。
こうして機織業界から需要のなくなった糸を、紡績会社は生産できなくなります。紡績工場は、相当量のロットがなければ糸生産ができないからです。

一昔前は、技術を持った遠州の機屋さんが今よりもあり、麻番手180番のようなラミー糸が流通していた時代がありました。
でも、今ではこうした糸は無くなってしまいました。
産地では、機屋さんが年々廃業し、技術を持つ職人さんは次々と減っています。
売り場でも、「極細コットンラミー」のような生地と、「化学繊維で作られたローン生地」の違いが分かる方は、もっと少なくなっていってしまうでしょう。
こうして時代が進み、日本の価値ある繊維産地が知らない間になくなってしまってきたのです。

かつては織られていた、でも今はもう織ることができない、という状況は日に日に進んでいます。
HUISが今、使わせていただいている生地もすべて、こうした未来と背中合わせです。
遠州のような繊維産地で、技術を持った機屋さんがかつてのように増えることは難しいと思います。ですが、今ある規模ができる限り維持されるような希望は持っていきたい。そのためには、今担う方々のモチベーションと、新たな担い手の発掘はどうしても必要です。
産地がこの先も残り続けるためには、こうした発信を続けていくことしかないと考えています。

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高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
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