(前回からの続き)
「いい生地」と「そうでない生地」の違いを知るには、シンプルに2つの要素だけを考えると分かりやすくなります。
①糸の品質
②機械の種類
ではまず①「糸の品質」について。
一般的に「高級糸」と言われる糸は、細くてツヤがあり、柔らかく丈夫で、着心地がよい生地になります。
一方で、安価な糸は、太くボソボソで、肌触りが硬く、長持ちしづらいといった特徴を持ちます。
もちろん生地や服の好みはそれぞれですので、それぞれの糸や生地が好きな方もいらっしゃると思いますが、糸の価格や特徴という視点で見るとこうした違いがはっきりとあります。
遠州は綿織物の産地なので「綿」について話を進めます。
高級糸と言われる糸になるかどうかは、糸の原料となる「綿花の品種」で決まります。具体的に言うと「繊維長が細くて長い」品種がこうした高級糸になります。
これらは「超長綿」と言われる品種で、繊維長が35mm以上のものを指します。(ギザ、スーピマ、スヴィンなど)
ちなみに、世界中で作られている綿花のうちこうした「超長綿」は1%未満しかありません。
なぜ「超長綿」は生産量が少なく希少かというと、こうした品種は気候や高度など生育適地が限られていることや、生育期間が長いことが理由としてあげられます。
生育期間が長ければ当然コストはかかるし、サイクロンやハリケーンで収穫できなくなるといったリスクも高まります。
一方、安価な綿は、世界中の多くの地域で作られ、生育期間が短くコストがかかりません。(中には枯葉剤を使用した環境問題や不当な労働など人権問題を引き換えに大量生産が行われているものもあります)
良い糸は高く、そうでない糸は安い。
良い糸は着心地がよく高級感があり長持ちする生地になる、そうでない糸はそうでない生地になる。
ごく自然に、こうした違いが生まれるのです。
なおより詳しい解説は、大正紡績さんとのトーク動画もぜひご覧ください。
■HUIS YouTubeチャンネル
「大正紡績」さんへ徹底インタビュー(画像資料提供)
https://youtu.be/MtkMK134FV8
では次に②「機械の種類」について。
糸は織ったり、編んだりして生地になりますが、この機械の種類が生地品質に大きな差を生みます。
遠州織物は織物の産地なので、織りの機械=「織機」を例に解説していきますが、現在、一般的に使われている織機は「エアージェット」と言われる高速型の織機です。
ヨコ糸を空気で飛ばすので「エアージェット」と言われるのですが、まさにピストルのように空気で糸を押し出し、そのスピードは目では追えないほど超高速で、一瞬で大量の生地を生産することができます。
対して、HUISの生地を織っている旧式の「シャトル織機」は、50〜60年前まで製造されていたものです。
現在は製造されていない貴重な織機で、「シャトル」と言われる部品がヨコ糸を運び、ゆっくりと空気を含みながら時間をかけて織っていきます。エアージェットと比べると実に20〜30倍の時間がかかります。
こうした2つの織機で織られる生地を比べてみましょう。
最新式の織機で織られる生地は、超高速で織るため糸に強いテンションがかかります。
これは物理的に避けられないことで、とても強い力で糸を張ったまま織り上げていくので、扁平で工業的な生地になります。また、生産効率を重視し少ない時間で大量の生地を作るために、現代の生地は低密度で織られたものが主流です。
一方、極めてゆっくりと織る「シャトル織機」は、糸にできるだけテンションをかけません。繊維に負担をかけず、ゆっくりと、ですがぎっしりと密度を入れて織っていきます。
わかりやすいイメージとしては、「たっぷりの糸を“ふにゃふにゃ”で、“ぎゅうぎゅう”に織った生地」。
立体的に織り上げていくことから生地表面には自然な凹凸感が生まれ、しなやかで着心地の良い生地が生まれます。
“風合い”という言葉は、遠州の機屋さんたちがよく自分たちの生地を表現する時に使う言葉です。
現代の高速型の織機で織られた生地が「工業的」であるのに対し、旧式のシャトル織機で織られた風合いのある生地は、文化芸術的な趣向の生地でもあると言えます。
繊維業の歴史は、いかに効率よくたくさんの生地を作るか、という技術革新の歴史です。
ただ、効率よく生地を織ったり編んだりするほど、生地品質は反比例していく、ということが分かりやすいのも繊維の世界。時間と手間をかけたものが良いものになる、というある意味、真っ当な世界であることが、とても面白い部分です。
このように見てもらうと「遠州織物」が高級生地の産地である、ということも自然に理解できるかと思います。
希少で高価な高級糸を用い、希少で扱いが難しい旧式のシャトル織機を使う。
最もコストのかかる選択をし、その技術力で美しいブロード生地、ローン生地を織ることで、圧倒的な差別化を図ってきたのが「遠州織物」というわけです。
前述したように、好みはそれぞれ。洋服も、生地選びも、人それぞれ自由です。
でもこうした知識が少しあることで、洋服選びはもっともっと楽しくなると思っています。
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高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
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