先日は、金子敦子さんと主婦と生活社の取材クルーのみなさんが、遠州に取材に来ていただきました。
今年もさまざまなことがあった一年でしたが、また来年に向けての新たな企画もスタートしています。
あらためて、こうして遠州織物や繊維産地というものが、いろいろなところで注目いただけるようになっていることを嬉しく思います。
これまで、この遠州に住む人にとっても、今まで「遠州織物」のことについて知られていませんでした。
正確にいうと「遠州織物」という言葉だけは知られていますが、その中身はほぼ全くと言っていいほど知られていませんでした。
そして残念ながら、その状況は今も大きくは変わっていません。
私たちは、「遠州織物」は斜陽産業で生産量は年々減少している、という情報だけを目にします。
すると多くの人は、遠州の繊維関係者には仕事がなく、生産量が減少しているのだと思ってしまいます。
でも産地の内側に入ってみると、少なくともHUISの周りの事業者さんたちは常に多くの仕事を抱えていて、新規の仕事を受けられないほどの状態にあります。
ある機屋さんは、受注から生地出荷までが1年半待ちの状況です。
アパレルブランドがその生地を使って製品企画をしようとした場合、早くても3年後のシーズンの製品展開となります。それだけの時間を要したとしても手に入れたい、と順番待ちをしている状況。(名前を聞くとその多くが仰天するようなメゾンブランドさんたちです)
そのほかの事業者さんも、多かれ少なかれ似たような状況にあります。
つまり、遠州で生まれる生地に対する需要は、供給を大きく上回っている。
受注に関して言えば、特段営業をせずしても仕事がなくなることはなく、事業者さんたちは生産に集中できる状況にあります。
では、それほどの需要があるのなら生産量をあげるために織機を増やせば良いのではないか、と思われがちですが、今はもう手に入れることのできない貴重な旧式の織機を扱っていることで特別な生地を生み出せることが遠州産地の特徴です。
これは「シャトル織機」に限ったことではありません。他にも遠州の伝統ある貴重な機械がたくさん使われています。
そうしたものが残り、使われ続けているのは、受け継いできた遠州の職人たちの技術があるからこそです。
仮に生産性を高めようと、今導入できる新しい織機の生産に切り替えた瞬間に、おそらく今ある需要は無くなるでしょう。(それによって事業を畳まれた事業者さんも過去には実際あります)
つまり、生産量を増やすことはできないのです。
こうした状況が一通り理解できると、そんなに需要があってかつ生産量を増やせないのであれば、価格を上げれば良いじゃないか、と言う意見も自然に生まれます。
需給バランスで成り立つ経済の中ではごく自然な考え方でしょう。
でも職人さんたちは、「周りのことを考えるとうちだけが価格を上げるわけにはいかない」と言われます。
また、値上げする、ということは周りから見るよりも、売り手にとって実際すごく負担が大きいものでもあります。
こういう中で、個々がどういう経営の選択をしていくか。産地としてどういう経営を選択をしていくのか。
この先の数年間に、産地の私たちがどんな行動をするのかで、おそらく未来は大きく変わってきます。
少なくとも、グラフで右肩下がりを続ける生産量減少の要因は、「需要がないこと」にはなく、「需要があるにも関わらず担い手がない」ことにあります。
地域が誇るべき、日本が誇るべき、それだけの需要と技術にスポットが当たらずに来たことを、今見返すべきだと考えています。
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高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
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