今週、いよいよ棚田プロジェクトの最終製品がリリースとなります。
リリースを前にして、地元新聞社さんや、アパレル・繊維の業界専門紙さんにも数多く取り上げていただくことができ、2年をかけて共に取り組んできた関係者のみなさんとともにとても嬉しく思っています。
この「遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト」の目的は大きく2つです。
ひとつは、国内有数の資源で大河ドラマの舞台にもなったほどの久留女木の棚田も、2/3以上も耕作放棄地化が進んでいる現状を多くの方に知ってもらいたいということ。そして棚田の維持につながる道のきっかけをつくりたかったという農業課題の視点です。
広大で平坦な農地に大きな機械を入れて効率よく行う大規模農業と対局にあるのが、中山間地農業たる棚田での農業です。自然の雨水に頼り、多くの手作業で成り立っている棚田での農作業にはより一層多くの苦労があります。
田も畑も、誰かが作物を育て続けなければいずれも山林化していきます。
代々そこに住む人たちが続けてくれている、という形で維持されてきた棚田が、現代において自然と消滅していくのは仕方のないことではあり、実際、国内の多くの棚田はすでに消滅しています。
一方で、足を踏み入れて目の当たりにする圧倒的な美しい景色や、子どもたちが訪れ学ぶことができるたくさんの体験は代え難いもので、日本人の誇れる大切な資産だと思っています。
今の状況が続けば、棚田を維持することは難しい。
こうした中で、私たちは企業との新しい形の連携に、棚田を保全できる可能性があると考えています。
例えば、遠州地域には大企業と言われる企業が多くあります。
こうした企業が棚田で農作業を営む農家さんたちと連携し、お米を作ったり、あるいは酒米を作ってお酒にしたりすることで、これらを特別なノベルティ商品として活用したり、または社員への福利厚生などに活用することもできます。希望する社員の家族が農作業を体験する、という機会にもなるでしょう。これが棚田の保全につながれば、CSR活動としても大きな意味を持ちます。
大企業のほかにも中小企業もたくさんあります。こうした試みをしてくれる企業が増えていけば、耕作が維持されること、地域の棚田の価値が発信されること、両面が自然と果たされるはずで、棚田が次代に受け継がれる可能性になると考えています。
一方で、これまでなかったことを企業が新しく始めるにはどうしても勇気がいります。
事例を増やしていくためには、まず最初の例となる連携のモデルが必要です。
こうしたことを久留女木地域振興協議会のみなさんと話し合う中で、今回の「遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト」はスタートしました。
具体的には、協議会とHUISは1アールあたりの単価を設定し、年間を通じた綿花の栽培と収穫の事業委託をする、という形を作りました。
私たちには綿花を栽培するノウハウはありませんが、委託する先はプロの農家さんたちです。試行錯誤しながら栽培をしていただき、当初の予想を超える収量の綿花を収穫していただくことができました。
収穫した綿はたくさんの方々のご協力を得て、遠州織物として生地にし、2年をかけて最終製品まで完成させることができました。
そして、このプロジェクトのもうひとつの目的が、服一着ができるまでにいかに多くの工程と職人の手作業が関わっているかをお伝えしたい、ということでした。
私たちは売り場に並んでいる洋服を見て、ややもすると服が自動的に工場でポンポンと簡単に生み出されているように感じてしまうことがありますが、10年前にHUISをスタートして最初に驚きを覚えたのが、いかに多くの緻密な手作業の連続で遠州織物ができているか、ということでした。
例えば、糸の状態から機織りをするという工程に行き着くまでには、撚糸・整経・糊付け・へ通しとさまざまな工程があります(これらを「前工程」と呼びます)。また、機織りをした後も、毛焼き・晒し・染色・整理加工などといった工程(これらを「後工程」と呼びます)を経て、やっと服を作ることができる“生地”になります。これらすべての工程は、職人さんたちの手作業で賄われています。
こうした職人さんたちの存在と、その仕事・技術を伝えるためには、原料である綿花の栽培から取り組むことが一番自然なことだと考えました。
こうしたことを伝えられるようにと作ったのが、先日youtubeで公開した「“遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト”〜種から、洋服まで〜」というタイトルの動画です。
動画ができあがり、撮影に協力してくださった事業者さんたちにこの動画の確認をお願いした際、「こういうことを伝えてもらいたかった」と喜んでくれた方が何人もおられました。
その声をいただけただけで、この「遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト」をやってきた意味があったと思えました。
2023年に収穫した綿からできた製品は今週リリースとなりますが、2024年の綿も収穫を終えており、また2025年の春にはまた綿花の種植えを行います。
遠州という地域の大切な資産と産業を伝えられるこのプロジェクトを、私たちはこの先も続けていきたいと考えています。
“遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト”〜種から、洋服まで〜