ブログ

知らずにいた故郷の誇り、遠州織物の今と未来 2025-06-15

【知らずにいた故郷の誇り、遠州織物の今と未来】vol.3

遠州織物について少しずつ学び始めたところですが、次から次へと知らなかったことが湧いてきました。先日、古橋織布代表の古橋さんに『経通し(へとおし)』について、お聞きしました。織物は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)によって構成されており、この経糸の準備にめちゃくちゃ時間と手間がかかるそう。そして経通しは、経糸の準備工程における最後の作業。経通しまで行われた経糸があって、やっと織布の工程に進むことができるとのことでした。

 

そして「経通しを含む各工程のうち、どれか一つでもなくなってしまうと、今の遠州織物は生み出せなくなってしまう」という話も伺いました。この分業制は、遠州織物の長い歴史の中で自然と形成されてきたものです。古橋さんによると、「かつての遠州地域には、紡績工場の最終下請けみたいな感じで、小さな織屋さんが千軒以上あった」そうです。それぞれの工程が専門業者として分業化され、家内工業的な形で続いてきました。そして「衰退が始まってからも、家内工業でやってきた人たちはそれで食べていくしかなかったから何とかして生き残ってきて、分業化された状態のままずっと残っている」と説明してくれました。

つまり、必要に迫られた職人たちがそれぞれの技術を極めることで、厳しい環境ながらもなんとか生き残り、その結果として高度な分業制が維持されてきたのです。この分業制になったからこそ、それぞれの工程を極めた職人が生まれ、そして「職人技を集結した遠州織物は、技術と技術がぶつかり合い、他にはない魅力を生んでいる」とのことです。分業化の経緯は、苦肉の策だったのかもしれませんが、それによって遠州織物の価値や魅力が高まったとも言えると思います。どこにもない、ここだけのもの。他の産業の陰に隠れてはいますが、やはり間違いなく浜松を代表する産業ではないでしょうか。

しかしながら、分業制による弊害も生まれているようで、前述の通りどこかの工程が途切れてしまうと、遠州織物は完成しなくなります。ですが、職人の高齢化や収益性の低さから、徐々に規模が縮小。後継者不足が、大きな問題になっています。経通しに至っては、現在専業の職人さんは2名。

必要不可欠な工程を担当できるのが、2名しかいない状況。間違いなくピンチです。産み出せる人がいなければ、産業は途絶えてしまう。当然のことではありますが、厳しい現実だと改めて痛感しました。遠州織物を守るためには、経通しを含む各工程において、後継者を見つけることが、最重要事項となっています。2人が3人に、さらに5人にとなっていくことで、より多くの人で遠州織物という産業を支えられるようになります。そうなることは、遠州織物の歴史を守っていく上で、必要不可欠な要素だと思います。

 

経通しの作業内容としては、織機の3つの部品に順番に経糸を通すこと。その際、すでに決められた図面通りに、作業を進めることが求められます。経通しの難しさが、そこなんです。古橋織布さんの標準的なパターンの場合、8,100本の経糸を経通しすることになります。8,100回、一度も間違えることなく作業をしなければなりません。もちろん、複雑な織物になると本数が増えたり、順番も不規則になったりと、どんどんと難易度が上がります。

やるべきことはシンプルですが、間違えずにやり通すためには、相当な集中力が必要になります。正直なところ、折り紙を折ると必ず白い部分が何箇所もはみ出るほど不器用なので、僕には適性がないかもしれません。ですが「職人の技」に対する憧れはあります。それは僕以外の多くの人も、共感できるのではないでしょうか?

専業の経通し職人として、数年前に独立された府川さんという職人さんが遠州にいます。府川さんが経通しを始めた頃の作業スピードは、1時間あたり200本ほど。それが、2〜3年のうちに400-500本ほどに増え、現在は700本ほどと3倍以上の作業スピードになっているそうです。1分の間に、10本以上のペース。どんなスピードなのか、どれだけの集中力を持って作業に取り組んでいるのか、いつか、その手捌きを是非拝見してみたいです。

とはいえ、経通しの作業を覚えること自体は簡単で、30分もあれば基本は習得できるとのこと。さらに経通しに必要な設備は、15万円程度で完備できるため、経通し職人への道の第一歩は踏み出しやすいものになっています。以前の経通し職人は自宅で、内職的に作業をしていたそうですが、府川さんはいくつかの企業と契約し、その企業に足を運び作業を行なっているとのこと。この「出張型」の働き方は、経通し職人の新しいモデルになるのかもしれません。

古橋さんは「府川さんの今の働き方がいいんだと思います。出張することでいろんな織屋さんの現場を見れるし、その人たちと交流があるから、自分の仕事がどう貢献できているか反応がすぐ返ってくる」と評価していました。 これまでは「自分の部屋の中でずっと黙々と」作業する孤独なイメージがありましたが、府川さんのように現場とのコミュニケーションを取りながら働くスタイルは、やりがいや技術向上にもつながるのかもしれません。「職人=孤独」ではないと伺い、勝手ながら持っていたイメージが変わりました。これも、話を聞かなければ、知らなかったことです。

経通し職人を職業として捉える上で外せない収入の話については、次回の投稿でお伝えします。まずは、遠州織物を守り続けている職人さんのことを、少しでも伝えられていれば嬉しいです。

 

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
HUISweb | www.1-huis.com
HUISonlinestore | https://1-huis.stores.jp
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

カテゴリー

オンラインショップ