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知らずにいた故郷の誇り、遠州織物の今と未来 2025-07-27

【知らずにいた故郷の誇り、遠州織物の今と未来】vol.5

浜松出身のライター・宮崎駿(みやざきしゅん)さんが綴る『知らずにいた故郷の誇り、遠州織物の今と未来』、第5回です。
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遠州織物について知れば知るほど、さまざまな特徴が見えてきます。その中でも今回は、遠州織物が育まれた「浜松」という土地に焦点を当ててみたいと思います。
 
日本には、遠州以外にも全国各地にさまざまな繊維産地があります。それらの地域に共通しているのは、「繊維産業がその地域の主要産業である」という点です。松下さんによると「基本的に繊維の町では、それ以外の目立った産業がないのが一般的」という状況で、企業だけでなく行政も含めて、町全体で繊維産業に取り組んでいるとのことです。
 
一方、浜松はどうでしょうか。浜松といえば、ヤマハやカワイといった楽器メーカー、スズキやホンダに代表される自動車産業など、日本有数の大企業が多数存在しています。浜松市全体の産業の中で、繊維産業が占める割合はわずか1%ほど。他の繊維産地とは異なり、むしろ多様な産業の一つとして織物業が存在しています。
 
その結果、遠州織物の知名度が低くなっているのかもしれません。僕自身も子供の頃から、浜松といえば「自動車」「楽器」「うなぎ」と認識しており、それは大人になってからも変わりませんでした。
 
一般的に、産業が発展すると次のような流れになります。まず小規模な事業者が多数存在する状態から始まり、次第に大きな企業が生まれます。そして、その企業が工程を「内製化」(自社内で全て行う)することで効率を上げ、大量生産・低コスト化を進めていきます。
 
織物に関しても同様です。例えば、織機などの機械を導入したり、経通しなどの各工程の専門スタッフを社内で雇用したりすることで、効率的な生産体制を作っていくのが一般的です。しかしそうなると、効率の高さが最優先されるようになり、均一な品質のものを安く大量に生産する方向に進みがちです。結果として「人件費の安い中国などの海外生産と比べると、どうしても価格面では太刀打ちできなくなってしまう」状況に陥りやすい側面も持っています。
 
通常であれば、このような状況下で小規模な織物事業者は淘汰されていきます。特に浜松のように他の産業が発展している地域では、職人たちは安定した雇用と給与、福利厚生を提供する自動車や楽器などの業界に転職していってもおかしくありません。織物業の低迷期には、生活の安定を求め、多くの技術者がこうした成長産業へと活路を見出していきました。
 
ところが浜松では、不思議なことが起きました。様々な選択肢がある中で、小規模な織物関連の職人たちがあえて織物業に留まり、生き残り続けてきたのです。古橋さんによると「衰退が始まってからも、家内工業でやってきた人たちはそれで生計を立てる道を選びました。さまざまな工夫を凝らして生き残ってきたため、現在まで分業化された状態のままずっと続いてきた」とのこと。この選択が、結果的に遠州織物の独自性を守ることになりました。
 
こうして浜松には「こだわりを持った職人たち」の独自の世界が形成されていきました。それぞれの職人が自分だけの技術を磨き上げ、互いに連携しながら分業制を維持したのです。経済的にはより安定した他産業へ移るほうが合理的な環境にありながら、織物業に携わり続けた職人たちについて、松下さんは「それだけ価値のあるものだからこそ」と表現しています。この言葉には、遠州織物の製品としてのクオリティや独自性だけでなく、そこに関わる人々の誇りも含まれているように感じます。
 
この「職人たちの連携」という形は、結果的に遠州織物の価値を高めることになりました。松下さんは「職人さんたちの連携によって非常に興味深いものが生まれますし、こだわりの技術と技術が融合することで、遠州では世界的にも希少な生地が作られている」と評価しています。効率よりも技術を重視する分業制だからこそ、均一な大量生産では決して生み出せない独自の価値が生まれたのです。
 
浜松市の遠州織物への支援については、様々な産業がある中での優先順位もあり、現状ではまだ発展途上の段階にあるようです。しかし、遠州織物の担当となった職員が実際に現場に触れる中でその価値を再認識し、徐々に支援の幅が広がりつつあるとのこと。浜松市全体の産業構成の中で繊維産業は約1%という規模ではありますが、その文化的・歴史的価値を考慮した取り組みが少しずつ進んでいるようです。多様な産業を抱える自治体としてのバランスを取りながらも、伝統産業への理解が深まっていることは心強い動きといえるでしょう。
 
多様な産業が集まる浜松という環境の中で、遠州織物は小さくとも確かな存在感を放ち続けています。効率化の波に飲み込まれず、職人たちが技術を守り続けてきたからこそ、世界が認める独自の価値が生まれました。経済的な判断だけではなく、技術を大切にする姿勢が、遠州織物の本質なのでしょう。地元出身の僕もその価値をもっと早く知りたかった—これからも浜松の貴重な産業として、その魅力を伝えていきたいと思います。

 

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高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
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