浜松出身のライター・宮崎駿(みやざきしゅん)さんが綴る『知らずにいた故郷の誇り、遠州織物の今と未来』、第16回「作った服が、すべて誰かの手元に届くということ」です。
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HUISのスタイルが、一般的なアパレルブランドとは色々と異なる点が多いことは、この1年間で徐々にわかってきました。常設店舗を持たないことだったり、中間業者を挟まず機屋さんから直接生地を仕入れていることだったり。
その中でも、特に印象的なのが「製品の消化率が100%」なこと。つまり、作った洋服は全て売り切っており、そうすることを前提にして計画をしているということなんです。

現在のアパレル業界全体の、プロパー消化率(定価で売れた服の割合)は50%に満たないそうです。作った洋服の半分は、定価で売れない。消化率が低いと、会社側としては利益を確保するために、価格を上げることになります。1着の利益を上げることで、売れなかったもう1着の損失を賄う。
このプロパー消化率には、セールでの販売数は含まれていません。季節の変わり目にショッピングモールに行くと、どのお店でも「セール中!!」「30%OFF」といった、赤いポップが掲げられています。これは百貨店でも同じで、どの価格帯に限らず、定価から値下げされている洋服が生まれてしまっています。
欲しかった洋服が安く購入できることはお得感があります。ですが、そもそもで定価での消化率がもっと高ければ、ブランド側の利益も安定します。するとブランド側も、十分な利益を確保できる範囲で定価をもう少しだけ引き下げる。ユーザーとブランド。どちらにとっても理想的な状況になります。
しかし私自身、シーズンの真ん中ごろになると、「そろそろセールかな」という考えが頭に浮かび、目の前にある気になった洋服を買わず、値下げを待った経験が何度かあります。セールの誘惑に勝つのは、簡単ではありませんね。
そしてセールの場でも売れなかった洋服は、倉庫で眠ったままになったり、最終的に廃棄されたりすることも。まだ食べられる食料が大量に捨てられている食品ロスと同じことが、アパレルの世界でも起きているわけです。
縫製され、梱包され、店頭に並んだ洋服が、誰にも袖を通されることなく処分されていく。その服に関わった人たちの手間や技術ごと消えていくような感覚があって、少し胸が痛くなります。
だからといって、業界全体がこうした構造になっていることを一概に批判できるとも思っていません。多くのブランドが大量に作るのは、欲しいと思っている人に確実に届けるための選択なのではないか、というのが私の見解です。
チェーン店と個人店を思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれません。例えば、静岡で人気のハンバーグ店「さわやか」。時間帯によっては、浜松市内の店舗でも1時間待ちを超える行列になることもあります。でも、その時間を待てばみんながハンバーグを食べられます。
一方、個人経営のラーメン店の場合。スープがなくなってしまうと、その日は食べられなくなります。行列が続いていても、準備した分だけしか提供しない。

どちらが正しいという話ではなく、何を大切にしているかの違いです。HUISもまた、作れる量の中で全てを届けきるという道を選んでいる、と私は理解しています。
HUISが消化率100%を実現できている背景には、生産と販売の仕組みがあります。機屋から直接生地を仕入れることで中間コストを削減し、常設店舗を持たずにオンラインストアを中心に販売することで、家賃や人件費を徹底的に抑えている。
こうした構造があるからこそ、貴重な遠州織物を使いながらも価格を落ち着いたものに保ちながら、セールや値引きなしで全てをお客様の手元に届けることを実現しています。
消化率100%という数字が示しているのは、作ったものひとつひとつに対する責任だと私は感じています。売れ残りが出ることを前提にしない。無駄が生まれる可能性を、最初から計画の中に組み込まない。その姿勢は同時に、HUISが扱う遠州織物という素材への敬意とも重なります。
旧式のシャトル織機でゆっくりと織られる遠州織物は、通常の20〜30倍もの時間をかけて生まれる生地です。その生地を使った服が、作られた分だけ必ず誰かの手元に届く。この事実には、ビジネスとしての合理性を超えた、ものへの真摯な向き合い方を感じます。

HUISのような在り方がアパレル業界全体に広がるためには、仕組みそのものを変えていく必要があり、簡単なことではないと思います。そもそも、大手メーカーが未消化を前提で洋服の確実な供給をしてくれているからこそ、HUISのスタイルが成り立っているという側面もあるのかもしれません。
それでも、作ったものが全て誰かに届くという選択が、ひとつのモデルとして少しずつ根付いていけば、ものづくりの景色は変わっていくのかもしれない。そんな希望を、HUISのことを知るたびに感じています。










