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メディア掲載 2024-05-30

\繊維機械学会誌「せんい」に掲載いただきました/

代表松下による「“産地発ブランド”が拓く、国内繊維産地の未来」を、繊維機械学会誌「せんい」5月号に巻頭言として掲載いただきました。
昨年浜松で行われた繊維技術研究会に呼んでいただいた際の講演が好評だったそうで、寄稿の機会をいただきました。
 
HUIS JOURNALに掲載しているものを再編集したものですが、改めて全文を再掲させていただきます。
よろしければぜひお読みくださいね。

 

“産地発ブランド”が拓く、国内繊維産地の未来

2014年にスタートしたHUIS(ハウス)は、静岡県西部を中心とした遠州地域で生産されている「遠州織物」を使ったアパレルブランドである。遠州で生まれた“産地発ブランド”としてまもなく10年を迎えるが、ブランド設立から現在に至る中で感じたことをお話ししたいと思う。
冒頭、少しだけHUISについて紹介させていただくと、販路は主に自社オンラインストアでの販売を中心に、全国百貨店でのPOPUPイベントの開催や、7箇所のショールームの展開、取扱店への商品卸など。現在、法人化後3期目を迎えており、直近の売上高は5.1億円である。

■遠州織物とHUIS(ハウス)について

「遠州」は主に綿織物の産地で、シャツ・ローン生地などのアパレル向けの広幅生地のほか、和装用の小幅生地、資材用の細幅生地などが作られており、さらには浴衣やてぬぐいなどに使われる「注染染め」の産地にもなっている。なお、アパレル生地については、麻織物も多く作られている。

HUISはアパレルブランドであるため、アパレル向けの広幅生地を使っているが、その中でも旧式の「シャトル織機」を使って織られる細番手&高密度の生地を中心に使っている。
シャトル織機だからこそ生まれる風合いや着心地の良さをお客様にわかりやすく伝え、遠州発の“産地発ブランド”として、産地の技術を発信し続けていることがブランドの特徴となっている。

一方で、BtoBに特化して流通する中間材であるところの「遠州織物」がほとんど知られることがない、という実情を、ブランド運営を通して痛感してきた。私自身は浜松市出身で、生まれも育ちも遠州である。ブランドの立ち上げ以前は、浜松市役所に10年近く勤務していた経験を持つが、恥ずかしながら幼少時代も、市役所時代も、遠州織物のことを知ることがなかった。

実際、遠州に住む地元の人も遠州織物がどんな生地なのか、どういった価値のある生地なのか、知っている方は多くはない。若い方だけでなく、年配と言われる世代までほとんど知られてないのである。今、学校に通う子どもたちにも、このままでは知られることはないと感じている。
こうした中で、遠州織物の価値を、洋服というものづくりを通してお伝えしているのが“産地発ブランド”としてのHUISの役割だと考えている。

 

■一次産業における産地と、繊維産地の違い

前述の通り、私は行政職員として浜松市役所に約10年勤めたが、そのうち7年間は「農林水産業の振興」の業務を担当していた。流通、組合指導、地産地消、6次産業化・ブランド化、広報など、さまざまな一次産業に関わる業務に携わってきたので、頭の中の大部分は一次産業がベースだった。

正直、自分自身が「遠州織物」という言葉を聞いた当初は、数多くある繊維産地の中のひとつで、他にも同じような生地を作っている地域や、あるいは国があると思っていた。米であれば「魚沼産コシヒカリ」、牛肉なら「松阪牛」や「神戸牛」といったブランドがよく知られている一方、他にも米や肉牛を作っている地域はあるわけで、それぞれの産地がブランド化を図って切磋琢磨している。遠州織物もこうした中の一つ、というイメージでしかなかった。

ただ、繊維関係者から話を聞くほどに、旧式の織機を使った細番手高密度の綿織物を作る産地は国内にもわずかで、国際的にみても希少であり、高い技術を持った職人たちがこの技術を閉ざさまいと奮闘している。そして、今にも消えて無くなってしまいそうな現状にある産地なのだということを知るようになる。
そして同時に、繊維産地とはこれほどまでに一般消費者に対して情報が伝わらないものなのだ、と感じた。例えば、「松阪牛」は「松阪牛」としてはっきりと消費者に認知されている。松阪に行けば間違いなくおいしい松阪牛のお店があるし、少なくとも、そこに住む地域の方々はそのことを誇りに思っている。しかし、遠州織物にはそれがない。

牛肉のように素材そのものが消費者に届けられる「農畜水産物」と比べ、「生地」はとにかく生産者から消費者までの距離が遠い。繊維業の特徴のひとつに、流通において中間に関わる役割が多い、ということがある。そして、アパレルは往々にして、素材そのものの価値よりも、デザインや見せ方といったものが尊重される世界である。私自身は、それ自体は文化的で尊いことだと思う。だからこそアパレル産業はこれほど魅力的で、巨大な産業になっている要素であるとも思う。

ただ一方で、こうした特徴的な流通の構造から「素材そのものの価値」に関する情報が薄まってしまうことがとにかく多いと感じる。多くの生地は、どの国で、どの産地で作られたのか、という情報すら、流通の途中で消えてなくなってしまう。そして、素材の価値の情報が薄くなるのであれば、それは効率良く生産できる安価なものにどんどんと置き換わっていくということも、実際、自然なことだと思う。遠州に住む人すら、遠州織物のことを知らないことにも納得がいくようになった。

■他産地における“産地発ブランド”との出会い

HUISを設立した頃を少し思い返したいと思う。ブランドをスタートしてから、展開規模が大きくなってくると、次第に地域内だけでなくイベント出展などを機会に地域外に出ていくようになる。そこで知り合った様々なブランドと交流する中で、他産地のことを少しずつ知るようになった。

その一つが、福岡・久留米絣をもんぺ(MONPE)にしてブランド展開する「うなぎの寝床」である。久留米絣は元々和装用生地だが、“日本のジーンズ=MONPE”というキャッチコピーで新たな価値を提案されていた。その後も、尾州織物で高品質なコートを作る「blanket」、播州で色鮮やかなショールを製作し展開する「tamaki niime」など、様々な産地発ブランドと出会う。こうした出会いを通して、それぞれの繊維産地のことを知るたびに、これは農産物と全く同じなんだ、と考えるようになった。

■農産物における産地と食文化

広大な面積を持つ浜松市は特に、”国土の縮図”と表現され、地域内に気候や地形・土質が異なるさまざまエリアがあることから、多種多様な農産物が生産されている。

例えば、浜松市の「みかん」が育つ地域は、山間地に近い地域で、大きな石が土中に多くある痩せた土地である。おいしいみかんが育つためには糖度を高めるため豊富な日照量が必要になるとともに、根からの水の吸収をどれだけ防ぐことができるかがポイントとなる。水はけが良い痩せた土地で日照量が豊富な地域だからこそ、おいしいみかんが採れ、ブランド力は高まり、みかん栽培の技術が歴史的に成熟している。一方、国内で長野に次ぐシェアを誇る浜松市の「セロリ」が育つのは、天竜川西岸や浜名湖東岸地域で、ここは栄養分が豊富で柔らかな洪積埴壊土が広がっているため、栄養を必要とする西洋野菜がよく育つ。

日本国内には農産物における産地が数多くあるが、こうした地域ごとの産地化を、生産・流通・ブランド化の面で大きな役割を果たしてきたのが、各地域に根付く農業協同組合である。厳しい出荷基準を設け、これに足る生産技術や資材を農家に提供し、品質基準の保たれた生産物を産地としてブランド化し、流通にのせる。

農作物に、洋服のようなデザインディレクションは不要で、流通に関わる人たちが、常に◯◯産という情報とともに、素材そのものを流通させていく。◯◯産という情報を、信頼性の根拠として。これは畜産物や水産物についても同様である。そのおかげで、我々日本人は、味だけでなく、地域性も感じられる豊かな食文化を享受できている。

■楽しみで仕方がない、アパレルと繊維産地の未来

こうした産地化の仕組みは、繊維業においても共通する部分が多い。繊維産地の分布においても、太平洋側に面した地域は綿織物の産地が多く、内陸部においては絹織物の産地が残っているように、日照量や気候といったものが産地形成に大きく影響しているとともに、その上で積み重ねられてきた産地それぞれの素晴らしい技術がある。
こうした中で、国内の繊維産地のことがきちんと知られ、生産を担う方々にスポットがあたるためには、流通の中間を担う自分達のような立場の人間が、どれだけ産地の価値ある情報を発信していけるかが鍵だと私は考えている。

HUISのような“産地発ブランド”は、産地で生地を仕入れるために介する中間事業者がいない。また産地内で直接、技術や生地の情報を得て、その価値を消費者へ伝えることができる。これほど恵まれた環境はない。国内の多種多様、豊かな繊維産地の情報を多くの人に知ってもらえることは、そこに住む地域の人の誇りになり、そして日本人にとっての誇りになり得る。

また、それはファッションを楽しむ消費者にとって、いかに幸せなことか。デザインやコーディネートだけで十分楽しめていたはずのファッションのもとには、無限に広がる日本の産地や技術という興味深い情報がある。前述した食文化のような世界が、その先にあるはず。そうした意味で、アパレルと国内繊維産地の未来をとても楽しみに感じている。

■“産地発ブランド”が持つ価値

最後に、販売現場での体験の話をしたいと思う。
私は、全国で展開しているイベントの販売現場に現在でも定期的に立つよう努めているが、半年ほど前にお話をした百貨店でのお客様の中に「【MADE in JAPAN】と記載されていても日本製の生地であることを示しているものではない」というお話をしたところ、大変驚かれたお客様がいた。その方は、以前テレビ番組で、アパレル業界における海外での就労問題や、日本の繊維産地の現状などが紹介された特集番組を見たことをきっかけに、「これからは日本で作られた生地の洋服を買おう」と心に決め、【MADE in JAPAN】と記載された服だけを買うようにしていたとのこと。そのことにとてもショックを受けられていたのが印象的だった。

HUISのような“産地発ブランド”は、国内産地で生産された生地で製品が作られていることが消費者に見えるだけでなく、その活動や売上は産地に還元され、産地の維持・発展につながると分かることが特徴である。価値を理解してくださるお客様の想いと、そうして買っていただいた売上が、日本のものづくりと職人技術が残り、後世に受け継がれるための糧になることが直感的に分かる。これまでの一般的なアパレルブランドにおいて、そうした意義が見えるものは多くはなかった。そのことこそが、“産地発ブランド”の本質的な価値だと思う。

冒頭紹介した百貨店でのイベントは、この年で3回目を迎える「繊維産地」をテーマとした催事であった。いくつもの“産地発ブランド”が集う同催事は、2022年に開催された第2回の時点で同会場におけるアパレル催事の過去最高売上を記録し、そして第3回目となる2023年は前年の売上をさらに大幅に更新している。

この大きな実績に、アパレルと日本の繊維産地の未来における“産地発ブランド”の手応えを感じるとともに、HUISもまた、様々な場所で多種多様な“産地発ブランド”たちと切磋琢磨していけることを楽しみにしている。

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高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
HUISweb | www.1-huis.com
HUISonlinestore | https://1-huis.stores.jp
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